
3時に会う約束をしている取引先の渡辺さんがやってきたと、後輩である受付の女性から連絡を受けた山本くん。応接室に渡辺さんを案内してくれるよう頼んだのだが、何か自分でも違和感があるようです。さて、どこがおかしい?

えーっと、「案内する」のは、山本くんの後輩の女子、つまり同じ会社の人だから、「案内する」は謙譲語を使って言っていいんだよね?

そうね。お客さんである渡辺さんとの関係では、自分の会社の人は身内扱いするのよね。

でも、「ご案内してさしあげる」っておかしくない?「ご案内する」がすでに謙譲語でしょ?

そうね。

そこにさらに「てさしあげる」がついてるなんて、過剰な敬語じゃないの?だから山本くんは、自分でもおかしいなって思ったんじゃないかなあ。「渡辺さんをご案内してください」でいいんじゃないの?

ええ、もちろん、それでもいいわよ。ただ、「ご案内してさしあげる」は、「案内してあげる」の「案内する」を「ご案内する」、「あげる」を「さしあげる」という謙譲語にしたもので、正しい敬語表現よ。これを敬語の連結というの。

へえー、敬語の連結っていうのかあ。じゃ、「お客様をご案内してさしあげる」と言ってもいいんだね。でも、「ご案内してさしあげてください」って、くどいよね。舌をかみそう。

そうね、間違いではないけれど、「してさしあげてください」は確かにくどいわね。「ご案内してさしあげなさい」ならいいけど、「~ください」という丁寧なお願いの表現にする場合は、「ご案内してください」のほうがスッキリしていいかもしれないわね。

「ご案内ください」ではダメなの?

「ご案内ください」は「案内する」の尊敬語なのよ。上司に言うならいいけれど、後輩に「ご案内ください」というのは不自然ね。

そうか。「ご案内ください」は尊敬語なのか!でも、「ご案内してください」と「ご案内ください」…うーん、なんだかややこしいなあ。

「して」が入っているのが謙譲語よ。

「ご案内してください」が謙譲語。身内の人に、目上の人の案内をお願いするときにはそう言えばいいんだね。「お客様を応接室にご案内してください」という感じかな。

そうそう。

で、ここでもう一度「ご案内してさしあげる」の確認だけど、それ自体は正しい謙譲語なんだね。

ええ、でも、「してください」をつけた「ご案内してさしあげてください」という表現はくどいので、お願いの表現にする場合は、「ご案内してください」の方が、スッキリしていいかな、という話だったわね。

「ご案内してさしあげる」のように、敬語の連結って他にもあるの?

ええ、「お読みになっていらっしゃる」「お読みになってくださる」「お読みになっていただく」などがそうよ。

まず、「読んでいる」の「読む」を「お読みになる」、「いる」を、「いらっしゃる」というふうにそれぞれ尊敬語にして、「お読みになっていらっしゃる」という敬語の連結のできあがり。これを使って「先生が本をお読みになっていらっしゃる」。うん、違和感ないね。

次に、「お読みになってくださる」は、「読んでくれる」の「読む」と「くれる」を、それぞれ尊敬語「お読みになる」と「くださる」にしたものよ。「先生が、私が書いた本をお読みになってくださった」と言う具合に使うの。

あと、「お読みになっていただく」は「読んでもらう」の「読む」を尊敬語「お読みになる」に、「もらう」を謙譲語「いただく」にしたものだね。これは「お読みになっていただけますか?」というふうに使えばいいのかな?なるほど、敬語の連結は、より丁寧にものを言いたいときに便利なんだな。

そう。目上の人が何かをしていることを「お~ていらっしゃる」、何かをしてくれることを「お~してくださる」、自分が目上の人に何かをしてもらうことを「お~していただく」という表現は、通常の敬語表現では丁重さが足りないな、という時に便利だから憶えておいてね。
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