上司の西川課長に、自分の読んだ本の話をしたら、課長は興味を持ったようです。そこで、山本くんは、課長に「よければ、この本あげますよ」と言ったのですが、課長はムッとしてしまいました。さて、どうしてでしょう?
いくら敬語に弱い西川課長でも、これはさすがにムッとするだろうね。
そうね。「あげる」は「与える」「やる」の丁寧な言い方ではあるけれど、敬語ではないからね。上司に「あげる」と言うのは、適切ではないわ。
自分が上の人にものを「あげる」ことを敬語で何て言えばいいのかなあ。
自分が上の人に物を「あげる」ことは、「さしあげる(差し上げる)」と言うのよ。
「さしあげる」?
そうそう。上にいる人に対して、「どうぞもらってください」と、手を高く上げて、ものを差し出しているところをイメージすると、おぼえやすいわよ。
なるほど。手を高くあげてさしだすから「さしあげる」か!そう言うとわかりやすいね。上の人に物を「あげる」ときには「さしあげる」。山本くんは、「課長、よければこの本さしあげますよ」といわなきゃならなかったんだね。
そうね、あと、「よければ」よりも「よろしければ」と言った方が、より丁寧でいいわよ。
「よければ」のていねいな言い方は「よろしければ」なんだね。「課長、よろしければさしあげますよ」か。わかった!
ただねえ、問題は「さしあげます」といわれても、まだ偉そうだと思う上の人もいるということなのよ。下の人からほどこしを受けたような気がして、イヤなんですって。
そんなあ。物をあげて気を悪くされちゃ、たまらないや。それでもあげたいときはどうすればいいの?
本は読むものだから、「よろしければ、お読みください」と言って渡すとかね。
なるほど、言い方を変えるわけか。じゃあ、あげるものが食べ物だったら「召し上がってください」となるわけだね。「課長、このお菓子、よろしければ召し上がってください。」という感じかな?
そうそう、よくできたわね。
ところでさあ、「あげる」で思い出したんだけど。「花に水をあげる」「猫にえさをあげる」という表現はおかしいという人がいるよね。「植物や動物に『あげる』というのはおかしい。『花に水をやる』『犬にえさをやる』だろう!」ってね。犬としてはまったく失礼千万な話だと思うよ。
確かにね。でも、昔は動物や植物、自分の家族などに「あげる」は使わないものとされていたからね。「花に水をあげる」「猫にえさをあげる」「子供にこづかいをあげる」と聞くと「なにかおかしいなー」って感じる人もいるのよね。
そうなのかー。でも、子供や犬や花を大切にしたいと思っている人は「やる」なんて言いたくないと思うよ。
そうでしょうね。だから、最近では「花に水をあげる」のような使い方も徐々に認められつつあるわ。でも、改まった場面では、言葉にうるさい人につっこまれる余地をなくすために、「花に水をやる」「犬にえさをやる」「子供にこづかいをやる」と言う方がいいと思うわ。
小秋もやっぱり外では「犬にえさをやる」って言うの?
うーん、不本意なんだけど、日本語について指導をしている立場上、やむを得ずね。
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