「ちなみにわが社では、このソフトを使用した結果・・・」と自社の製品の魅力を語る山本くん。しかし、お客さんたちはなんだか微妙な表情。たしかに山本くんの発言はエラソーに聞こえるのだが、それはなぜ?
自分の会社のことを「わが社」って言っちゃダメよ。
え?そうなの?
うん。社員同士の会話ならいいんだけどね。外部の人に言うと偉そうに聞こえてしまうわ。それに「自分の会社」という意味の謙譲語がちゃんとあるのに、「わが社」なんて言ってると、言葉を知らないと思われるわよ。その意味でも使わないほうがいいわよ。
「自分の会社」という意味の謙譲語?
うん、「弊社(へいしゃ)」って聞いたことないかしら?
あ、あるある。
あと、「小社」という言い方もあるわね。
確かに小さな会社だけど「小社」なんてあまりに卑屈じゃない?
伝統的に自分のことは低く、小さく言うことになってるというだけの話だからね。深い意味はないのよ。
「当社」って言い方はダメなの?
中立的な言い方ね。使っても失礼にはあたらないけど、謙譲語ではないわよ。
ふーん。他に自分のものについての謙譲語ってある?
あるわよ。例えば、自分の書いた文章は「拙文」、自分の家は「拙宅」。
「拙」をつけると謙譲語になるんだね。「拙文をお読みくださいましてありがとうございます」「拙宅にお越しくださいましてありがとうございます」なんて使うのかな?
そう。他には「愚」をつけるというパターンもあるわ。自分の奥さんは「愚妻」、自分の息子は「愚息」というふうにね。
深い意味はないと分かっていても、ひどいなあ。
確かにね、単に「妻」「息子」と言っても相手に失礼にはあたらないので、抵抗がある場合はそう言えばいいわ。あと「弊社」と同じように「弊」をつけるパターンもあるわよ。自分たちが発行している雑誌は「弊誌」とかね。
「弊誌をお読みくださいまして、ありがとうございます」って感じかな?
そうそう。
自分のものを低く言う場合は「弊」「小」「愚」「拙」をつけるのかあ。たくさんあって、ややこしいなあ。
とりあえず「弊社」「小社」をおさえておけばいいと思うわ。
そうか、分かったよ。ところで、山本くんは相手の会社を「御社」って言ったけど、それはいいんだよね。
うん。「御社」は「会社」の尊敬語よ。「会社」の尊敬語には、他に「貴社」というのもあるわよ。
相手のものを言う場合は「御」「貴」をつけるのかあ
「高」「令」「尊」をつけるものもあるよ。相手の意見は「高見」相手の配慮は「高配」、相手の息子は「令息」、相手の父親は「尊父」。さらに「御」をつけて「御高見」「御高配」「御令息」「御尊父」とすることが多いわね。
そういえば、「御高配」はビジネス文書でよく見るなあ。「日頃は格別の御高配を賜り厚く御礼申し上げます。」なんてね。記号のように使っていたけれど、実はあれって尊敬語だったんだねえ。
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