会社をたずねてきた取引先の人たちを玄関まで送ってきて、びっくり。外は土砂降りの雨。山本くんは自分が持っている傘を貸そうと「もしよければ、傘をお持ちしてください。今、持ってきますので、少々お待ちください。」と親切にも言ってあげたのに、なぜか2人は笑いをかみころしている。
山本くんはロッカーにビニール傘を大量に持っているんだ。折りたたみ傘を持ち歩く習慣がなくて、出先で雨に降られたら必ずコンビニで買うから、たまっちゃうんだって。
仕事はきっちりしてるのに、そういうところは適当なのね。まあ、敬語についてもだけど。
お客さんたちは、「お持ちしてください」で笑っているんだよね。山本くんは、「傘を持っていってください」って言いたいわけでしょ。「持っていく」のはお客さんたちだから、尊敬語を使わなきゃいけないんだよね。
そう、でも山本くんは「持つ」の謙譲語「お持ちする」に「ください」をつけてしまっているのよね。「お持ちする」は目上の人の何かを「持つ」とか、目上の人になにかを「持っていく」ことだからヘンよね。
「傘をお持ちしてください」と言うと、お客さんたちに「目上の人に傘を持っていってください」と言ったことになっちゃうね。
この場合、その目上の人というのがいないので、ああ、言い間違いだなってことで笑い話で済んだけど、場合によっては失礼だと怒られかねないので、気をつけましょうね。
例えば、会社に来た人が帰る時に、その会社の社長へのおみやげとして自社の製品を持って帰ってもらうというような場面だね。
そうそう「こちらを御社の社長にお持ちしてください」なんていうと、そのお客を使い走りあつかいしたことになっちゃうのよね。
笑い話ですまない場面があるんだねえ。「お持ちする」を使っていいのは自分が目上の人に何かを「持ってくる」「持っていく」場合なんだよね。山本くんは「今、持ってきますので」って言っているけれど、そこでこそ「お持ちしますので」って言わなきゃ。
そうね。さて、ではいよいよ「お持ちしてください」の訂正にかかりましょう。「持っていってください」を尊敬語にしてみてくれる?
「持つ」の尊敬語「お持ちくださる」をお願いの形にして、「お持ちください」とするのが適切だよね。
そうそう。「待ってください」は「お待ちしてください」ではなくて、「お待ちください」と正しく言えているのに、不思議だわ。
さっき課長に「お待ちしてください」って言ってたから、指摘されたんじゃないかなあ。
「持ってください」「待ってください」の尊敬表現は同じパターンなので、この機会に両方マスターしてしまいましょうね。
「持ってください」は「お持ちください」、「待ってください」は「お待ちください」だね。
そう!では最後に、山本くんの発言を通しで正しく言ってみてくれる?
うん。「もしよろしければ、傘をお持ちください。今、お持ちしますので、少々お待ちください。」
正解!そして「よければ」を、より丁寧な表現「よろしければ」にちゃんと言い換えたのは偉いわ。
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