Question
セミナーなどで、主催者側の「本日はお運びくださいましてありがとうございます」「お運びいただきましてありがとうございます」などという挨拶を聞くことがあります。
「来てくれてありがとう」の敬語だということは分かるのですが、日常的に「来る」ことを「運ぶ」とは言いませんので違和感があります。
「お運びくださいまして」という言い方は正しいのでしょうか?
「足をお運びくださいまして」という言い回しも聞いたことがありますが、これは「足を運ぶ」という慣用句なのかな?ということで納得できる気がします。
Answer
こんにちは、小秋です。ご質問ありがとうございます。「お運びください」という言い方が適切かどうか?たしかに悩ましい問題ですが、一緒に勉強していきましょう。
おっしゃるように、「足を運ぶ」のように「足を」を付けた言い回しは、慣用表現として用いられています。「あることのために、わざわざ出向く」という意味ですが、「運ぶ」それ自体には「行く」「来る」の意味はありません。
しかし辞書の中には、項目「運ぶ(はこぶ)」の意味として、「おはこびになる」「おはこびくださる」などの形で「来る」「行く」の尊敬語となる、という説明を載せているものがあります。
どうやらご質問の「お運びくださいまして」「お運びいただきまして」は、適切な言い回しとして認められているようなのです。
1 物や人をある場所から他の場所へ移す。移動させる。「荷物を―・ぶ」「けが人を救急車で―・ぶ」
2 (「足をはこぶ」などの形で)ある場所まで出向く。目的地に行く。「せっせと足を―・ぶ」「歩 (ほ) を―・ぶ」
3 (「おはこびになる」「おはこびくださる」などの形で)「来る」「行く」の尊敬語。「ようこそお―・びくださいました」
出典:運ぶ(はこぶ)の意味-goo辞書(2022年1月閲覧、太字筆者)スポンサードリンク
ですので、「お運びくださる」「お運びいただく」と人に対して、「それは間違いだ!」と指摘することは難しいでしょう。
ただ、違和感があるというのは分かります。
「運ぶ」の一般的な使われ方が「荷物を運ぶ」「けが人を運ぶ」のように「○○を」目的語をともなうものなので、「お運びください」とだけ言われると「何も運んでないけど?」と言いたくなってしまうんですよね。
ではこの点「足を」を付けるとどうでしょうか?
「本日は足をお運びくださいましてありがとうございます」
「本日は足をお運びいただきましてありがとうございます」
これだと、「○○を」の部分が抜けていませんので、不完全な日本語だという違和感は消えます。
しかし、ここで新たな悩みが発生します。「足」に「お」をつけなくてよいのかという問題です。敬語表現においては、相手のものには「お」「ご」をつける必要があるからです。
とはいえ、「お足をお運びくださいまして」というと、くどいというか慇懃無礼(ていねいすぎてかえって失礼)な気がしますよね。これよりは「お運びくださいまして」を使う方が自然な気がします。
ということで、辞書に収録されている言い回しとして、「お運びくださいまして」「お運びいただきまして」を採用するのはありではないでしょうか。
もし気になるようでしたら、「お運びくださいまして」の部分を言い換えてしまうのも一つの手です。
言い換えの候補には、「お越しくださいまして」「おいでくださいまして」「お越しいただきまして」「おいでいただきまして」などがあります。
- 10問のクイズでビジネス敬語力をスピードチェック > ビジネス敬語力診断テスト
- ビジネス敬語にまつわる疑問はサクッと解消 > ビジネス敬語お悩みQ&A
- オフィスでよくある場面ごとにビジネス敬語のトレーニング > シーン別実践ビジネス敬語