
取引銀行や取引先各社の人を招いてのタカラ物産のパーティーが、グループ店舗のレストラン「すみれ庵」でおこなわれている。司会進行をつとめることになった店長の中山さんは、元気よく「それでは弊社の小林社長からご挨拶をいただきます」と。それを聞いた上司たちは冷汗をかいている。さあ、どうして?

うーん、社内のパーティだったら「小林社長からごあいさつをいただきます」でもいいんだけどねえ。

今日のパーティーには、社内の人も参加しているけど、銀行の人やよその会社の人がたくさん出席しているんだよね。

ええ。その場で司会進行をつとめるときは、社外の人と話すときと同じような敬語づかいをする必要があるわ。

じゃあ、「小林社長からごあいさつをいただきます」は、まずいよね。社外の人との関係では、自分の会社の人のことは、たとえ社長といえども身内として、自分と同列にあつかうというルールがあるんだから。

そう、だから石橋部長も服部課長も冷汗をかいているのよね。

まず、「小林社長」というのはよくないんだよね。社外の人の前で、自分の会社の人間を呼ぶときは、「社長」「部長」「課長」などの役職名を名前の下につけてはいけないんだよね。

そうそう。「社長の小林」とするべきよ。「社長」「部長」などの役職名は、「様」「先生」などと同じはたらきをするの。

よその人の前で、自分の会社の社長のことを「小林様」と言ってはダメなのと同じだね。

あと、「ごあいさつをいただきます」は何でダメだかわかる?

「いただく」は自分が目上の人に何かをしてもらうことを言う謙譲語なんだよね。手を上にさしだして「ありがたくもらいます、ハハーッ」って感じ。だから「社長にご挨拶をいただきます」と言うと、その場にいる人みんなが、社長に対してハハーッとすることになってしまう。

そうそう、勝手にお客様を下に置き、社長を持ち上げることになってしまうのよね。外の人に対しては、自分の社の人は社長といえども自分と同列とみなすのだから、中山さんは、自分が目上の人に「ごあいさつをする」と言うときと同じように話さなければ。

自分が目上に人に「ごあいさつをする」ことをどう言うかを考えればいいんだね。 あれ?ちょっと待って、自分の「あいさつ」なのに「ごあいさつ」って変じゃない?

それはいいのよ。自分の「あいさつ」でも、向かう相手が目上の人である場合は「ごあいさつ」としてもいいの。この場合の「ごあいさつ」は「あいさつ」の謙譲語なのよ。

へえー、「あいさつ」の謙譲語かあ。

ええ。ちなみに、自分がする「説明」や自分が書いた「手紙」なども、それが目上の人に向かう場合は「ご説明」「お手紙」としてもいいの。これ、おぼえておくと便利よ。

よし、「ごあいさつ」はOK、と。あとは「する」を謙譲語「いたす」にして「ごあいさつをいたします」。「社長の小林からごあいさつをいたします」・・・なんか変だな。

自分や自分側の人間が「あいさつをする」ことを、敬語で「ごあいさつをいたします」ということ自体は間違いではないんだけど、今回の場合「小林から」が上についているので、日本語としておかしくなっているわ。よく使われる言い回しは「○○からごあいさつを申し上げます」よ。

なるほど「申し上げます」を使うんだね。「社長の小林からごあいさつを申し上げます」か。 ビシッときまったね!
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