イントロダクション
人から褒められれば誰だってうれしいもの。ビジネスの現場となればその喜びもひとしおですよね。できればその感動を相手に伝えたい。今日はそんなときに効果テキメンの上手い返し方を伝授いたします。
タカラ物産では、営業部の王くんが、取引先の担当者である今津さんとオンラインで会話をしています。今津さんは、王くんの素早い対応を誉めてくれました。それに対する王くんの反応に、今津さんはパソコンの画面の向こうで噴き出したようです。さて、王くんは、何と言ったのでしょう。
今日のレッスン
今津さんは、オンライン飲み会用の一口弁当の手配の件で、王くんの素早い対応を誉めてくれていたんだ。「この度は、時間のない中迅速にご対応いただきありがとうございます。さすがは王さんですね」って。
なるほど。それに対して王君は?
「恐悦至極に存じます」
(ブッ)きょうえつしごく!武将かいっ!
どうも大河ドラマで覚えたみたいなんだけど、やっぱり現代のビジネスの場面で使うのは奇妙だよね。
現代でも、この上ない喜びであることを、手紙などの書き言葉で伝えたいときにはありかもしれないわ。でも今回は口頭でしょ。「何か含みがあるのか?それともふざけてるのか?」ってことになりかねないわ。
誉めてもらってうれしいことを敬語で伝えるには、どう言えばいいのかな。「お褒めの言葉をいただき光栄です」かな?
それもこの場面、関係性ではちょっと大げさな気がするわ。
そうかあ。じゃあこれはどう?「とんでもございません」。
うーん、「とんでもございません」は使わない方がいいわ。「とんでもない」を丁重に表現しようとして、「ない」の部分を「ございません」に変換したものなんだけど、日本語として不適切だとされることがあるのよね。
えっ、そうなの?仕事上の会話でよく聞くような気がするよ。正しくはどう言うの?
「とんでもないことでございます」かしらね。ただ、今回の王君と今津さんの会話では、「とんでもない」を使うこと自体が不適切かもね。
なんと。どうしてなの?
「とんでもない」は、相手が言うことに対する否定なの。今回の場合「さすがは王さんですね」という相手の賞賛を否定したことになってしまうわ。
なるほどそうか。あっ、じゃあもしかして「滅相(めっそう)もない」もだめってこと?
そうね。これらはともに相手の言葉を否定する言葉。例えば、相手の謝罪を受けて「いえいえ、謝ったりしないでくださいよ」と言いたい場面で使うのであれば適切よ。
なるほど。例えば「この度はご無理申し上げて申し訳ございませんでした」という相手の言葉に対して「とんでもないことでございます」「滅相もないことでございます」と返すのは適切なんだね。
そうそう。
だとして、今回の場合は、王くんは何といえばよかったんだろう。
「恐れ入ります」がいいんじゃないかしらね。相手が誉めてくれたことに対する喜びの控えめな表現よ。
「恐れ入ります」か。これもよく聞くフレーズだね。でも、喜びの表現にしては淡々としすぎていない?あと「普通は謙遜するところだろ」って思われやしないかなあ。
確かにね。気になる場合は、ひとこと付け足すといいんじゃないかしら。例えば、「恐れ入ります。これも今津さんのお力添えあってのことです」なんて具合にね。
おお、これなら相手の褒め言葉を受け止めた上、さらに謙遜の気持ちがあることを伝えることができる。実にスマートだね。
今回のポイント
- 「恐悦至極に存じます」は現代の仕事の会話では大げさ。
- 「とんでもございません」は日本語として不適切と言われる。
- 「とんでもないことでございます」「滅相もないことでございます」は相手の言葉を否定するときに使う。
- 相手の賞賛をうれしく思う気持ちは「恐れ入ります」で伝える。
- 一言足りないと思う場合は、自分だけの力ではないことを伝える言葉を添える。
※この会話は、日本語検定1級 平成30年度第2回検定問題 問3(『日本語検定1級公式過去問題集 2019年度版』収録)をヒントに作成しました。
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