
すみれ庵のアルバイト金さんが、パーティーの招待客にトイレの場所をたずねられた。大切なお客様だと店長の中山さんに聞かされていたので、ていねいに「あの角を右に曲がってもらって、まっすぐ進んでもらいますと、お手洗いがございます」と言ったのだが、お客はあまり喜んでいない様子。どうして?

「もらって」「もらいますと」と続いてくどいわりに、丁寧さが欠けているような気がするなあ。

正しいと思える表現に直してみてくれる?

目上の人に何かをしてもらうことを謙譲語で「いただく」と言うよね。だから「もらう」を「いただく」に変えて、「あの角を右に曲がっていただき、まっすぐ進んでいただけますでしょうか」で、どうかな?

うーん。今度は「いただく」が続いて、くどいことには変わりがないわね。それに「目上の人に何かをしてもらうこと」って言ったけれど、そもそも「何かをしてもらう」という場面かしら?

あ、そうか。お客さんは自分がトイレに行くために通路を曲がったり進んだりするわけで、別に金さんのために曲がったり進んだりするわけじゃないもんね。なのに「もらう」「いただく」という表現をするからヘンなのか。

そう。「もらう」「いただく」は、相手のすることによって、自分がなにかの恩恵を受けるときに使う言葉なのよね。だから、自分のために何かをしてもらうのではないという場面で使うと、不快に感じる相手もいるから気をつけるようにね。

「右に曲がっていただけますか」と言って、「別に君のために曲がるんじゃない」なんて言われたら、へこむだろうなあ。

できるだけ丁寧に聞こえるようにという配慮をしたつもりが、相手を不愉快にさせてしまっては元も子もないわよね。

よし、じゃ金さんの言ったことを適切な言い方にしてみよう。「曲がる」「進む」はお客さんのすることだから、尊敬語を使って言えばいいんだよね。

そうね、やってみてくれる?

「曲がる」「進む」の尊敬語は「お曲がりになる」「お進みになる」だから、「あの角を右にお曲がりになって、まっすぐお進みになってください」か。うーん。なんかくどいな。

「進んでください」の尊敬語を使った言い方には、「お進みください」もあるわよ。

「あの角を右にお曲がりになって、まっすぐお進みください」だいぶスッキリした。でもまだくどいね。

敬語としては正しいんだけど、確かにね。そう思う場合は、「曲がる」を尊敬語を使わずそのまま言ってもいいと思うわ。

失礼にならない?

最後を「お進みください」という尊敬語で締めているから、失礼には響かないわ。それに、そのほうが情報伝達がスムーズでいいのよ。

「あの角を右に曲がって、まっすぐお進みください」なるほど、分かりやすいね。

丁寧に言うべきなのは「曲がる」よりもむしろ「あの」ね。「あの」の丁寧な表現を使って「あちら」といった方がいいわ。

「あちらの角を右に曲がって、まっすぐお進みください」。これで完璧だね!
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